2024年12月6日
強まるステンレス輸入材の勢い
幅広い品種に増大へ
10月の中国材は倍増、台湾材も伸長

 ステンレス輸入材の増勢が、15年以上ステンレス業界の衆目を集めるニッケル系薄板だけでなく、溶接管まで幅広く拡大している。国内メーカーの独壇場から情勢が徐々に変わってきている棒鋼などでも目立つ。太原鋼鉄、宝新、ヨンジンや上海スタール、青山鋼鉄など流入する中国ミル材の多様化が薄板で進行し、ユスコやウォルシンなど台湾勢もじわじわと存在感を高めている。10月のステンレス鋼材輸入(日本鉄鋼連盟統計)は前年同月比44・4%増の2万6296dと大幅増だ。
 中国材は、10月が93・6%増の9796dと倍近く増えている。台湾材は、薄板だけでなく溶接管のYCイノックスや、線材関連メーカーの材料も入ってきており、10年ほど前と比べてやや元気のない韓国材よりは勢いがある。10月は41・6%増の6958dとこちらも大きく増加した。直近の目立つ傾向は、ニッケル系薄板の勢いはそのままに、クロム系薄板、溶接管や棒鋼など他のステンレス材でも海外材が浸透してきている点だ。普通鋼薄板も海外材の脅威は強く、鉄鋼業界全体の話題としてより目を引く。ただ、流入している分だけ流通やユーザーの海外材ニーズが高まっていることの表れでもあり、国内材が軸のある加工流通役員は「さすがに今は、右から左への商売で海外材商売を少しはしている」とこぼす。
 薄板を中心に外堀を埋めるように海外材の扱い企業が増大し「自社もやらないと、市場の変化についていけないし、関係情報も手に入れられない」(流通筋)との声もある。国内ミルの海外材への警戒は強いが、市場の厳しさは増している。通商施策の検討、また高付加価値・高機能材拡販などできる手段は原資やマンパワーのある限り打ち続けないといけない時代になっている。
2024年12月5日
中国ミル、対日HCさらなる安値挑戦
リロールが主力ターゲットか
韓国材も入り混じり建築品種に悪影響

 中国ミルが日本ユーザー向けに、超安値のホットコイル供給を画策しているという。これまでは8万円台前半が下限値とされてきたが、それを下回る挑戦的な価格が提示される可能性もあり得ると関係筋の証言だ。ターゲットになるのは建材分野だ。ユーザーには日本国内の需要低迷で仕入れコスト低減が求められる。リロールなどユーザーに向けて食指の動く価格帯を展開すると見られる。
 中国ミルは12月販価を大幅値上げし、国内マーケットの立て直しに取り組んだ経緯がある。だが、経済回復に確たる要素はなく、市中価格は小刻みな上げ下げを繰り返している。ミル各社は輸出でガス抜きを継続するしかなく、対日向けでは太い客を探している。リロールメーカーは中国材にとどまらずアジア域から割安で良品質の材料入手にこころを砕いている。用途によってソースを指定するケースもあるという。
 輸入材の対抗について、東京製鉄が原料価格を踏まえつつ価格対応してきたが、もはや常識的なレベルでは考えられない領域へと中国材は進み始めている。今後、日本国内の高炉や東鉄がこうした事態にどう対応するか注目される。中国だけではない。最近では韓国の経済悪化で大手ミルは厳しい経営状況に置かれている。社内合理化も目立った効果を生まず、通商措置を講じたり、輸出ドライブをかけたりするしか選択肢がなくなっている。日本のミルは今大きな岐路に立たされている。
 日本の建築需要は長く低迷していても、鉄骨ベースで年間400万dのボリュームがある。海外ミルには魅力的だ。製品でも母材でも輸出する側は臨機応変に対応できる。大手ゼネコン主導で輸入鋼材も加工品も流入は増える。日本の市場は打つ手なしなのか。
2024年12月4日
JFE商事、CCS事業実装化へ前進
タンク材アジア域内安定調達にめど
日本郵船・KNCCと共同プロジェクト

 JFE商事はCCS事業の実装化に向けて、日本郵船やそのグループ会社と協業をさらに前進させる。今年3月に3社は液化二酸化炭素(LCO2)の回収と貯蔵に関して戦略的パートナーシップを結んだ。以降LCO2輸送船カーゴタンクや陸上での一時貯蔵タンクを安定的かつ大量に供給できる体制作りを模索してきた。このほど、アジア域内における鋼材の安定供給にめどをつけた。
 このタンクは常温昇圧方式「LCO2─EPシステム」で使用される輸送船カーゴタンクと貯蔵タンクだ。これはCO2を常温・昇圧状態で貯蔵あるいは輸送するシステム。CO2の取り扱いが容易であることや、CO2の液化や貯蔵層への圧入前に必要な、加温・加圧プロセスで要するエネルギーが少なくて済む画期的なもの。CCSのバリューチェーン全体において、カーボンフットプリントやコストの削減が可能となる。材料には汎用性の高い炭素鋼を使用。既存の大径管製造設備を活用し、機械溶接により生産できる。短納期・低コストで量産が可能だ。
 JFE商事は鉄鋼やその周辺ビジネスへの知見と国内外に展開するネットワークを活かし、タンク製造に必要な鋼材を調達しサプライチェーンに貢献するのが役割だ。同社はアジア・オセアニアにおいて、中国・台湾・ベトナム・タイ・シンガポール・インドネシア・フィリピン・豪州に数多くの営業拠点を展開している。緻密なネットワークが本プロジェクトにおいて強力な推進力となる。
 日本郵船は総合物流業の実績をもとにCCS事業サプライチェーン全体の運用を支え、そのグループであるKNCCはタンクを使用した常温昇圧方式でのLCO2輸送に関する技術を提供。3社が連携し早期の実装化を果たす。
2024年12月3日
アイ・テック、物流改革に新境地
北上─豊橋間に鉄道輸送
トピーとコンテナ製作、5社協業

 アイ・テックはトピー工業、日本貨物鉄道、浜松委托運送、三八五通運と5社で鋼材輸送における鉄道を活用したモーダルシフトに取り組む。鋼材流通として、輸送の効率化だけでなく、CO2排出削減という環境対応の物流システム構築は初めての試みとなる。すでに11月12日から実践に入った。
 今回の取り組みはアイ・テックが岩手県北上市に建設した拠点「北上D・M・C」に、トピー工業の豊橋製造所で製造された鋼材(H形鋼や一般形鋼)を輸送する工程について、大型トレーラーではなく鉄道網を使用するもの。この取り組みに際し、アイ・テックとトピー工業はそれぞれが新造したコンテナ2台、合計4台を鋼材積載に使用する。コンテナは31フィートサイズで、外法が長さ9410_×幅2490_×高さ2500_。内法が長さ9181_×幅2323_×652_。環境対策のためシートをかけて運ぶ。運ぶ鋼材の長さは9b以下とする。31フィートは日本貨物鉄道の西浜松駅で扱うコンテナの最大サイズでもある。クレーンやフォークリフトでの鋼材の積み下ろしが可能だという。
 北上D・M・Cとトピー豊橋は約800`の距離がある。鉄道輸送の場合は西浜松と盛岡貨物ターミナル間の793`が置き換えられる。トレーラー走行時間は年間で61%削減、CO2削減は65%削減が可能となる。
 アイ・テックは環境負荷低減や輸送効率化において業界の中で積極的な取り組みを見せている。環境負荷低減については、清水支店の工場屋根への太陽光パネル設置や、静岡県内の企業初となるEVトラック導入などを行っている。(本紙2面に続く
2024年12月2日
業界の顔が物流改革で最適化追求
阪和とアイ・テックが協業
効率化に加え環境負荷軽減にも挑む

 阪和興業はアイ・テックと協業し、東日本における鋼材物流変革に取り組む。物流2024年問題を契機に鉄鋼業界では川上から川下まで輸送のボトルネックが顕在化した。両社では将来にわたるサプライチェーン安定化のために、問題解決に向けて検討を開始する。来年から具体案について議論を始める。
 今回の取り組みについて、阪和興業では日常的な商売と物流を分離して思考していくという。両社の物流を支える業者と共に物流効率化のための最適体制を模索する。阪和の関連物流会社はKHロジスティクス、アイ・テックのグループ物流会社は中央ロジテック。この4者で物流効率化だけでなく、環境負荷低減につながるものを構築する。
 KHロジスティクスの代表は全国トラック協会の副会長を務めているという。このため両社は同協会とも連携し企業枠を超えた取り組みへと発展させていく。取引先も含め取り組みに賛同する企業とは連携を図りたいとしている。まずは陸上輸送での効率化を目指すが、その延長には海上輸送も検討の余地はあるとしている。
 あくまでも物流機能に限定はしているが、阪和興業とアイ・テックという組み合わせは大きな反響を呼ぶだろう。在庫商社という点において、阪和は最も市場を知り尽くした存在だ。そしてアイ・テックは独立系流通の雄として東日本を中心に展開、業界に大きな影響力を持つ。物流という共通項で手を結ぶのは画期的なことだ。話が具体化したのは今年の夏ごろだという。
 高炉の構造改革で物流のコントロールは流通にとって必須となった。首都圏という最大消費地を擁するなかで、トップ企業の連携は時代の要請ともいえる。
2024年11月29日
商社初、建設業界向けGX本格化
MISI、新脱炭素ビジネス
25年度初頭に事業化を目指す

 伊藤忠丸紅鉄鋼(MISI)は、建設業界の脱炭素化の取り組みを本格化させる。同社はネクストフィールドとNTTコミュニケーションズと3社で28日、建設業界向けのGXソリューションビジネスにおいて協業することで合意した。建設業界における脱炭素化の取り組みはまだ途上にあり、GHG排出算定には多くの手間がかかる。3社は共同でソリューションを提供すべく検討を進める。
 建設業界では建物のライフサイクル全体を通してGHG排出量の算定と削減が求められている。3社はそれぞれの機能を活かしこの課題に取り組む。建設業界のサプライチェーンを支える伊藤忠丸紅鉄鋼、建設業界や現場に知見を持つネクストフィールド、ICT活用に長けたNTTコミュニケーションズがその力を結集させる。
 具体的な取り組みについては、建設業界向けGXサービスとして、戦略立案や排出量可視化やそのための情報収集支援、排出削減やカーボンクレジット支援などを検討する。また、建設現場のDXとGXを掛け合わせた統合サービスの提供についても検討する。ネクストフィールドのDXサービスと、伊藤忠丸紅鉄鋼のMIeCO2との連携などが挙げられる。伊藤忠丸紅鉄鋼ではMIeCO2のサービス提供を本格化させており、これではNTTコミュニケーションズと連携を行っている。新たな取り組みにおいて、実績とノウハウを最大限に活かすことができる。今後、3社が目指すのは2025年度初頭での事業化だ。この取り組みに賛同する企業も巻き込みながら建設業界の脱炭素化の促進に寄与していく。建設業界に限らず国内産業界はSCOPE1・2の段階からSCOPE3へと移行する時期に差し掛かっており、この取り組みは実にタイムリーなものだ。
2024年11月28日
神戸製鋼、めっきライン改造に大投資
320億円でKOBEMAG一貫生産
輸入汎用材増えるなか、品質力で勝負

 神戸製鋼所は「KOBEMAG」の自社一貫生産のための設備投資を行う。総額320億円をかけて、加古川製鉄所のナンバー1溶融亜鉛めっき鋼板設備とその付帯設備について改造を行う。これにより年産能力は25万dに拡大する。2028年8月の稼働を目指す。一貫生産は29年8月をめどにしている。
 鉄鋼事業においては久々の大投資になる。23年度に稼働した厚板の仕上げ圧延機の投資は150億円だった。今回はその倍以上の規模だ。KOBEMAGの安定した売上と、建築向けを中心として多岐にわたる需要分野における成長性を踏まえ、大型投資を決断した。KOBEMAGの始まりは、17年に旧日新製鋼の溶融亜鉛─アルミニウム─マグネシウム合金めっき鋼板の「ZAM」について、OEM製品販売とめっき委託加工について、当時の日新と契約を結んだところにある。日本製鉄は日新製鋼を子会社化し、その後に合併しているが、子会社するときに溶融亜鉛めっき鋼板について公取問題が浮上。この問題を解決するために、ZAMについて神戸製鋼に特許技術と製造手法を供与したものだ。
 時を経てKOBEMAGは19年に16万dを売り上げるようになった。神戸製鋼は販売チームを新設し、自社一貫生産に向けて体制を整え始めた。幾度となく設備増強の話が持ち上がったが、自社ブランドとしての市場定着を優先、機会をうかがっていた。原型となるZAMは通常の溶融亜鉛めっき鋼板に比べ10─20倍の耐食性を持っている。溶融亜鉛めっき55アルミ鋼板と比較しても5─8倍の耐食性がある。そしてプレスなど加工性に優れているのが特長だ。KOBEMAGは旧日新時代のZAMの再現度が高くユーザー人気がある。輸入材が増加するなか、品質勝負で差をつける。