2025年7月16日
「障壁」を超えてグローバル展開
ポスコがサウジで快挙
「欧州市場」のカベ破るHIC鋼材納入

 トランプ関税と自国製品ファーストの思潮が世界の自由通商を覆う暗雲のなかで、ポスコがブロック経済通商のカベを破る高級鋼材の受注納入に成功した。
 サウジアラビアのアームコプラントへHIC鋼材の採用を決め、配管は現代スチールパイプとセア製鋼、圧力容器はハンヨウメカテック、継手はダイコウで製作している。これまでサウジなどの中東プラントへの鋼材納入は欧州勢の金城湯池で、経済ブロック化が進行する情勢なか、ポスコはこれを破る快挙を成し遂げた。
 ポスコが今回納品したHIC鋼材は、水素誘発割れ(Hydrogen Induced Cracking)に対する抵抗性を持ち、過酷な環境で使用される石油、ガスなどのエネルギー用鋼管や圧力容器素材などに活用される。エネルギー用鋼材は、エネルギーの採掘や生産のために使われるプラント用と、輸送パイプ部門に区分されるが「水素誘発割れ防止鋼材(HIC Resistant Steel)」がプラント部門に納品されるのは今回が初めて。
 ポスコの高い技術力と関連産業の鋼材加工・使用技術のコラボレーションによってHIC鋼材の供給で欧州勢のカベを破ることに成功したが、世界の鉄鋼貿易はトランプ関税の前で自由な通商を寸断され、報復関税対応を含め渾沌の沼に落ちている。
 自国ファースト、あるいはブロック経済の形成による利益防衛策などが進むなか、ポスコは地域主義を超えた市場参入を成し遂げたことでシーズとニーズをつなぐ産業力に自信を深めている。(本紙2面に関連記事
2025年7月15日
東鉄建値は3カ月連続で据置き
「底入れ」へ我慢の8契
3万d減産も実行で「値下げ」予想

 東京製鉄は14日、8月契約分の製品販売価格(建値)を全品種で据え置きと発表した。建値(トン当たりH形鋼11万2千円・異形棒鋼8万5千円・熱延鋼板9万4千円、厚板10万円)の据え置きは3カ月連続。小松ア裕司常務は鋼材市況の下げ止まりが確認できていないとの認識を示し「市況の底入れを図る」と話した。7─9月は電炉メーカー各社の夏季定修・減産期に入り、国内建設分野は働き方改革・酷暑対策などで施工能力が落ちる懸念はあるものの供給減から需給がバランスしていくとの期待がないわけではない。小松ア常務は米国の関税政策の行方や発動が見込まれる韓国AD措置の影響も注視しながら、鋼材需要の持ち直しを待ちたいとした。
 田原工場と九州工場は7月下旬、夏季定修期間に入る。需要見合いの生産を続けるなかでの2工場の減産で、7月生産量は前月計画比3万d減の22万dを計画。このうちH形鋼7万d、ホットコイル10万d(輸出分5千d)、厚板4万dを予定する。低水準のホットコイル輸出分について小松ア常務は「採算を見ての数量だ」と説明。「米国の関税政策の影響を受けて国際取引は低調で、中国の内需不振から価格も低迷している」という。
 国内建設分野は熱中症対策もあって施工能力が落ちたままだが、好材料はある。建材品種は物流施設やデータセンターなどでの引き合いは多く、公共工事の本格化を追い風に秋口に向けて荷動きの回復があり得る。他方、鋼板品種では米国との関税交渉が決着していないため向け先・流通の慎重姿勢が続くものの、産業機械や工作機械関連向けは堅調だ。流通在庫に一部で歯抜けサイズも散見される状況もある。ただ、足元はまだ向かい風が強い。東鉄は在庫販売価格(H形鋼・異形棒鋼・厚板)も前月横ばいとしたが、ユーザー・流通業者向け実行価格の下げを予想する向きは多い。
2025年7月14日
敷板7万円際攻防、中国材動向注目
国内外の材料入り乱れ競争
需要環境悪化と数量確保に焦り

 敷板価格動向に不穏な空気が流れている。国内・輸入材が入り乱れて7万円際の攻防へと移っている。中国材の輸入が増え続けるなかで、建材品種への集中度は増している。首都圏大型案件について基礎部の話が動き始めている。上物はこれからだがまず、基礎の土木工事に向け中国からは敷板や鋼矢板、H形鋼が入ってくる。敷板は国内材の価格競争力が勝っていたが、今後もその基調が続くかどうか注目される。
 中国材は6月の段階でFOB7万5千円でオファーされていたが、国内材と比べると優位性が薄かった。海外に比べ日本の鋼材市況水準は高く、対日向けは比較的高めに設定されていた傾向がある。だが物件そのものの数が少なく、中国材と言えどこれまでのスタンスで数量が確保できるわけではない。関係者は局所的に起こっていることと前置きしつつ、国内材の方が安いこともあると指摘する。メーカーが需給調整に腐心するなかで、ある程度の押し込みも必要になっているということだ。
 敷板についてはまとまった数量を扱える業者は一握りだ。海外から調達した時点で売り先は決まっている。それほどの販売力があるゆえに売り込む側も大胆な価格提案をする。ここへきて扱い業者は仕入れに慎重になった。値ごろ感が掴めないためだ。アジアの鋼材市況動向を見る限り、もう一段の値下げが濃厚だ。中国材については「国内向けの値上げと輸出対応は別物」と捉える向きが多い。  ミルとしては国内価格に連動させる気はないし、為替変動分で値上がりした場合はたやすく値を引くこともできる。国内メーカーがこうした動きをどう牽制するか注目される。いずれにせよ7万円割れがすぐそこまできている。
2025年7月11日
中国製H形、対日輸出更なる値下げ
C&F515j提示、攻勢積極化
首都圏大型案件本格化向け懸念強まる

 中国製H形鋼の対日向けの価格がさらに下落した。足元のオファー価格はC&Fで515jまで値下がりしており、秋口以降の入着は円換算で7万円代前半となる見通しだ。為替が円安に振れたとしても確実に8万円を割る。こうした中国材は土木向けに使用されているが、今後首都圏や都市部を中心とした再開発案件の進捗に合わせ、増加傾向をたどると見られる。
 中国国内では建設需要低迷で条鋼類の需給バランスが大きく崩れている。中央政府は唐山地区のミルに減産指導を行っているが、期間が限定的なことや対象が鋼板類中心となるため条鋼類の生産については、コントロールが及ばない。
 陸続きの東南アジアにも大量に放出されており、ベトナムではAD賦課後も流入は収まっていない。日本向けは昨年から数量が増加傾向にあり、今年5月は1万5千dが入着した。H形鋼輸入メーンだった韓国材は大幅に減少、中国材にとって代わられた。価格の突出した安さが日本市場に食い込む要因となっている。5月入着は8万円際まで値下がりしており、大台割れは時間の問題だった。
 中国材の使用増加が目立つのは民間物件の基礎工事だ。国内メーカーが内需減の生産量の減少に苦戦するなかで、こうした中国材の市場浸食はおおいに憂慮すべき問題といえる。足元では大阪万博会場近くでIRの工事が始まったが、ここにも基礎材で中国材が用いられる。資材高騰と働き方改革により、ゼネコンは輸入材や輸入の加工品の活用を積極化させている。食べていくために受注せねばならぬ鉄骨ファブも、不満をのみこんで静観せざるを得ない。だが、このままいけばなし崩しだ。直接・間接も含め市場に与える価格影響も大きい。
2025年7月10日
関東鉄源、落札価格ほぼ横ばいで安定
7契4万1000円台、為替とブランド力
アセアンインフラ支えに一定引合

 関東鉄源協同組合は9日、7月契約の鉄スクラップ輸出入札を行った。落札は1番札のみで4万1716円で1万5千dだった。前月比551円安となった。海外引き合いが弱いことが背景にある。向け先はバングラデシュかベトナムと見られる。
 応札量は11万6500dで15件、辞退はなしだった。海外では鋼材需要が低迷し、中国製の安い半製品が出回っていることで、鉄スクラップに対する引き合いは弱い。同組合では今回4万1千円台で落札したことについて、足下のフレートの水準から見て妥当との見方をしている。為替が円安に振れていたことで支えになったこと、関東鉄源ブランド効果が挙げられる。前回は一船2万dを上限としたが、今回は適用しなかった。
 前回は船積みする7月は連休があること、電炉メーカーの夏季操休などを考慮して落札量の上限を引き上げることは可能だと見ていたという。6月契約の船積は7月4日から7月19日までに行われる予定だ。一船2万dに業者も力が入っており、良品質の鉄スクラップ積込みに徹している。作業は順調だという。
 今回の向け先候補であるバングラデシュやベトナムは国内経済状況がいまひとつだが、一定量の鉄スクラップ買付けは行っている。関東鉄源の場合はブランド力が評価を得ている。今後も数量・価格とも大きな変化はないと見られる。日本国内は西日本を中心に鉄スクラップ価格は下落傾向にある。建設需要の低迷により、電炉メーカーの操業が落ちているためだ。本来ならば輸出価格とリンクするところだが、昨今は海外市況とはリンクしなくなってきた。製品需要悪化という点では日本も海外も同じだが、ベースとなるものは日本の方が弱い。
2025年7月9日
経産省2Q需要見通し、低調続く
粗鋼生産2011万d、前期比横ばい
米国追加関税影響は明確に出現せず

 経済産業省は8日、第2四半期の需要見通しをまとめた。粗鋼生産については2011万dの見通し。前期比0・4%の微減にとどまりほぼ横ばい。今回の予想を踏まえると上期の粗鋼生産は4030万dとなる。このまま需要が持ち直さなければ年度で8千万d際もあり得る。
 鋼材需要については1838万dで前期比1・1%増、輸出向けは609万dで0・4%の微減だった。第1四半期に続き第2四半期の見通しでも米国追加関税影響は明確には表れていないと経済産業省は説明する。ただし、企業の投資意欲には何らかの影響を及ぼしている部分があるとも指摘する。先行きの不透明感があるためだ。
 国内向けの普通鋼は954万dで前期比1・8%増、特殊鋼は275万dで1・9%増だった。輸出向けについては普通鋼が500万dで前期比2・0%減、特殊鋼が109万dで7・8%増だった。特殊鋼の輸出については個別要因が含まれているとされており、前期からのずれ込み影響と見られる。輸出環境そのものが変化したわけではないという。
 普通鋼の部門別消費見通しは、建設が393万dで前期比1・8%増。土木向けの増加によるもの。公共向けの予算がついていること、従来年度末に集中していたものが分散化する傾向があることも背景にある。製造業向けは560万dで前期比1・8%増。全体的に需要は低調だが、第1四半期よりは若干の改善が見られるようだ。
2025年7月8日
普電工、25年度鉄筋需要予測を試算
過去最低を更新588万d
建設分野の施工能力不足が響く

 2025年度の国内鉄筋需要は前期実績比5・0%減(31万d減)の588万dに減る。普通鋼電炉工業会(美濃部慎次会長=合同製鉄社長)は7日、小棒委員会(藤田倫之委員長=合同製鉄常務取締役執行役員)の予測を公表した。国内鉄筋需要は3年連続で過去最低を更新し、ついに600万d台を割る。美濃部会長は「大型プロジェクト(PJ)の案件が絡む鉄骨は26年度から需要が回復していくと見られるが、地方都市のマンションなどが需要を支える鉄筋は大型PJ案件の積み上げによる需要回復は見込みにくい。大型PJ向けの基礎や付帯設備向けの鉄筋需要は多少出てくるかも知れないが、東北などの落ち込みを見ると厳しい状況は続きそうだ」と見通した。
 鉄筋需要予測は構造別着工統計数値や鉄筋の用途別シェア(24年度は建築向け72%・土木向け19%・その他向け9%)などを基に試算した。今回は着工から出荷までのタイムラグを9カ月・12カ月の2パターンで出すとともに、着工統計を25年3月分までを反映させた場合と、建築基準法改正前の駆け込み後の反動減があった4月分までを反映させた場合も加えた。このうち3月実績までを反映させたタイムラグ12カ月のパターン(602万d)以外はいずれも鉄筋需要600万dを切った。25年度鉄筋需要予測588万dは4月実績を反映させたタイムラグ9カ月パターンとなる。
 その他手法でも予測数値を算出し、25年1―3月の国内向け出荷実績(149万d)の年率換算(4倍)では596万dに、類似する生コンクリート業界の需要想定に当てはめた数値は566万─599万dになった。建築・土木分野では働き方改革による稼働時間の減少や、それに伴う施工能力の制約などが続き、鉄筋需要は24年度実績からさらに下押しされる。国内鉄筋需要はピークだった1991年度の1213万dから半減以下になる。