2025年4月23日
東鉄H形鋼小幅下げと意思表示
市況形成見直しきっかけに
4―6月が今後利益確保の試金石

 (東京)東京製鉄の値下げで、H形鋼市況は新たな局面を迎えた。上下の値差が過去最大となり下落が収まらなかったが、東鉄下げが流通の過当競争収束のきっかけとなる可能性があるのだ。実行と建値の乖離を指摘されながらも、値下げは小幅にとどめた。これ以上の「下げ」はないという一種の意思表示である。メーカー販価にかかわらず、市中の安値は進行していたがここで流通が踏みとどまれるかが問われている。
 改定後の東鉄建値は11万2千円。市中の実勢よりも高めの水準だ。需要低迷が長引き、メーカーの物件価格が値下がりしたことで、店売り市場は間接的な影響を受けた。一定の販売量を確保するために各社少しずつ無理をした。年度末という季節柄、数量確保の動きが加速したことも否めない。流通関係者にはあと一歩踏み込めば、マーケット形成がもはや取り返しがつかないところまで行き着く危機感があった。そうした中で、東鉄が3千円の幅で値下げを選択したことをいぶかる関係者の声もある。
 ホットコイルの売れ行きが厳しく、東鉄としては主力のH形鋼で補う必要がある。建築需要は前年と横ばいか、やや悪化が業界内の見立てだ。東鉄としても値下げで数量を伸ばすには限界がある。小幅下げは、東鉄の妥協できる範疇だと解釈できる。商社や特約店によって温度差はあるが、在庫の入れ替えは一定の割合で進んだ。今後はこれまでのようには販売ありきで無理をし過ぎる必要はない。東鉄の値下げで間違いなく市況はもう一段階下がる。それは回避できない。だが、流通としては下げ一辺倒にブレーキを踏むきっかけにはなるはずだ。大手流通の局地戦も驚く安値は出なくなった。この辺りが潮時だ。流通間の疑心暗鬼はまだ解消できないが、「頃合い」を感じる関係者も増えてきた。
2025年4月22日
東鉄、24年10契以来の形鋼・厚板の改定
H形鋼など3000円値下げ
原料事情や市中ムードの悪化背景に

 東京製鉄は21日、5月契約販価を公表、トウテツコラムを除いた形鋼品種と厚板について3千円値下げするとした。形鋼品種の対象はH形鋼・縞H形鋼・I形鋼・溝形鋼・U形鋼矢板。今回値下げした6品種は昨年10月契約以来の値下げとなる。
 形鋼を中心とした値下げについて東鉄では、主原料の鉄スクラップが海外で下げに転じるなど状況が変化したこと、国内製品市況が3月から4月にかけ悪化していることを理由に挙げた。同社ではH形鋼などの市況を踏まえ、建値を合わせたとした。
 厚板については安値の輸入材の入着が増えていることを踏まえ、牽制球を投げる意味で下げたという。厚板は素材だけでなくビルトH形鋼のように加工品となって入着するケースも出ており、東鉄としても問題視している。
 4月の生産計画はトータル25万dの見通し。内訳はH形鋼7万5千d、ホットコイル12万d(輸出向け3万5千d)、厚板4万5千d。物件・在庫販売価格は今回の建値改定に伴い変更。H形鋼は11万7千円、厚板は10万円とした。異形棒鋼は据え置き。
 同社は4月契約で薄板や異形棒鋼を値下げ。当時はマーケットの底入れを想定していたが、トランプ関税や中国の輸出増、為替変動などが新たな要素として加わり、見通しが一段と難しくなったとの見解を示した。今回の形鋼も同様に底入れを狙っているが、断続的な市況の値下がりを踏まえ、視界の悪さを嘆いた。形鋼の値下げについて、流通関係者の間では鉄スクラップ基調の転換と、物件需要低迷を背景にある種の予感があった。関係者が注視するのは値下げがファイナルになるかどうかだ。先安感は強いにしても再販価格の引き下げはもう限界にきているためだ。(本紙2・3面に関連記事と販価表
2025年4月21日
赤木鉄流懇会長、内需減要因と見通し
24年度4%減、労務問題が現出
全鉄連正・副会長、鉄需創出可能性に言及

 鉄鋼流通問題懇談会は18日、3カ月に一度の定例会議を行った。会議後、赤木純一会長(JFEスチール常務)は国内外の状況について触れた。内需について2024年度見込みは前期比4%の減少となることを踏まえ「少子化要因で毎年1%ずつ影響が出る。だが、24年度は4%減少だ。3%の減少は人手不足などの労務問題が一気に現出した。すでに対策は講じられているので25年度の減少幅は縮小する」との見解を示した。
 だが、本来の内需減の要因とは異なるものも出てくる。「トランプ関税は今後注視が必要。鉄鋼の25%追加関税よりも、自動車関税と建産機に影響する相互関税の動向が重要だ。建機は7割が外需でこのうち3割が北米。産機は6割が海外でこのうち3割が北米となり影響度が高い。より注視が必要だ」とイレギュラーな要因について述べた。
 全国鉄鋼販売業連合会の井上憲二会長(明治鋼業会長)は足元が会員企業について苦しい環境ではあるものの、流通として乗り切る策はまだあると述べた。「今年、全鉄連は70周年を迎える。新たなスローガンに、未来をひらけ! とあるが鉄需は開拓されたとはいえ、まだまだ広げる余地はある。皆さんのお知恵が集まればまだ可能性がある」。
 澁井信之副会長(澁井鋼材社長)は「お客様に寄り添い要望を聞くことで新たな仕事の創出につながっていく」とし、努力の余地はあるとした。井上浩行副会長(大裕鋼業社長)は「日本は規制を見直すことで新たな需要を生み出せている。当社はベトナムに拠点を持っているが、現地では国産の小型EVが走り、割安であることからバイクから若い人が乗り換えている。規制の在り方を変えることで、消費をもっと活性化できるのではないか」と意見を述べた。
2025年4月18日
ステンレス輸入、台湾系で新たな参入
東盟開発の薄板、一部で流通
韓国・中国系交え市場競争強まる

 ステンレス輸入材で、新たなメーカー材が徐々に散見されてきた。最近では、台湾の東盟開発実業の薄板が一部流通間で扱われるようになったという。「SUS430の薄板は、一部中国材よりも光沢は良い」(中小流通)と評する声もある。ニッケル系薄板も流通しているといい、国内材だけでなく相対的にみて押され気味とされる韓国材、増勢が強い中国材やインドネシア材など海外材間でのシェア競争も激しくなってきている。
 海外材扱いに対して引き続き繊細な商社流通もあるが、中小を中心にここ数年で広まってきたヨンジンや太原鋼鉄なども含めて海外材扱いが過半数を占める流通も増えてきた。台湾材では、5年以上前からユスコ材が一部で認知されており、ユスコ材自体も扱い流通が増えているとされる。直近の2月のステンレス鋼材輸入では台湾材が1─2月の累計で前年同期比14・1%増の1万2502d(日本鉄鋼連盟統計)と中国材同様に大幅に増えている。韓国材は減少傾向。中国や台湾系商社の営業体制が強化されたため、飛び込みの営業は少なくなったようだが、地道な取り組みで市場への浸透を実感する声は増えている。
 昨年、中国材などで品質が低下したとの指摘があった。代わりに日本材への引き合いが増えたという。品質対応の厳しい日本のユーザーを相手にする流通からみれば、中国材に難色を示さざるを得ない。注目は中国ミルも品質課題に対応し改善を進めている点だ。「メーカーが原価低減を図って表面品質が悪くなったようだが、圧延ロールのメンテナンスを行い品質改善したようだ」(流通筋)という。海外材が主力の商社や流通はいまのところ入荷が遅れていることはない。米中対立の激化で、関税引き上げの応酬の影響は計り知れない。その余波について流通関係者は努めて冷静に判断しようとしている。
2025年4月17日
地方流通の苦戦、建設需要低迷長期化
長年の取引関係も犠牲に
大手問屋難しい舵取り、稼ぎと天秤で

 建築需要低迷長期化で、地方の鋼材流通の経営が苦しくなってきている。首都圏における大型物件の延期や、中小物件の計画見直しなどにより、首都圏需要が大きな支えとなっている地場コンやファブが苦戦しているためだ。地方の3次店は地場ユーザーとの強力なつながりで生き残ってきたが、そこが直撃されているため、苦しい防戦を強いられているのだ。
 日本鉄鋼連盟の2月受注統計によれば、地域別受注は前月比で増加したのは北海道と四国のみだった。あとは前月を下回っている。東北は10・5%減、九州・沖縄は3・5%減だった。
 首都圏向けの仕事以外にも、半導体や自動車関連で地元に還元されるものがないわけではないが、計画がとん挫したり延期になったりするケースもあるため、地場流通はそうした環境下で売上を確保するためにやり繰りをして凌いでいる。
 地方店では仕入れのボリュームを抑えたり、少しでも安値のものを探して我慢している。この影響が都市部の大手流通の販売に及び始めていると関係者は嘆く。
 大手流通幹部が危惧しているのは、長年の取引関係にひびが入っても、価格優先の仕入れに動くケースが増えてきたことだという。薄板類については輸入や電炉材のシェアが増えたこともあり、流通の選択肢が増えた。このため、当座を切り抜け得るために仕入れ先を見直す向きもあるという。
 問屋クラスが売上を落とすことで弊害が起きている。市況形成において立て直しがより難しくなってきた。鋼板類をはじめ市況品種の大半が底値圏に達しているが、なかなか底入れしない。国内メーカーの価格水準とは別次元で市中価格が推移するのはこのためでもある。
2025年4月16日
3寂として目を引く決算週間の「空欄」
想定できない25年度の業績
グローバル需要業界、内需専業も囚

 来週から決算週間が始まるが、トランプ関税施策のグローバル経済に及ぼす影響が各国産業の業況を左右することから、わが国の2025年度の鉄鋼業績見通しは空欄を余儀なくされそうだ。
 トランプ大統領の朝令暮改の一言一句に株価は乱高下し、為替は円高がどこまで進むか予想できない。個別企業の動向だけでなく、中国が保有する米国国債を含め国家の信用棄損も念頭に置かなければならない事態といえる。ドルを基軸とした世界金融の信用に足る受け皿はなく、米国が自ら自由な市場経済を破壊すれば、それは「核」の使用に匹敵する未曽有の混沌を招く。「脅し」から始まる「暴発」の地雷は世界中に埋まっている。
 足元、日本鉄鋼業は第1四半期の粗鋼生産の2千万d割れを回避する見通し(経産省)だが、25年度8千万d割れの可能性は拭えない。トランプ関税が日本、中国、欧州、アセアンの製造産業の収縮を招けば「昨年並み」ではない不況に沈む公算が大きい。自動車や建産機、電機・通信・半導体関連にとどまらず、船舶輸送の減少から造船業の稼働も抑制される。必然的に建設投資(非住宅)は低下し、これを「観光」で支えることなどできない。住宅投資も減少し、これまでの「少子化」「リフォーム」の凹凸に止まらない冬の時代が予想される。不可視ながら、そうした事態も念頭に高炉各社は中期経営計画のリセットを検討。24年度実績を下回る設備稼働状況を「欄外」に睨みながら第2四半期に向かう。内需に特化した普通鋼電炉各社も逃げ道はなく、現状を上回る減産体制の構築が課題となる。
 高炉、商社の北米戦略は「アメリカファースト」と「カナダファースト」、米国のコスト構造を支えるメキシコへの抑圧に揺らぎ、7─12月の活動を見通せない。5月GW明けに続く鉄鋼各社の決算発表に注目が集まる。
2025年4月15日
中国3月鋼材輸出、過去最高の1045万d
人民元安と原料コスト減で強気
通商措置もハードル越える競争力

 中国の3月鋼材輸出が過去最高となる1045万dになった。1千万d超えは3度目。2016年7月に1030万d、24年9月に1015万dが輸出された人民元安と、原料価格下落により製品価格競争力が強くなったことが主要因だ。米国向けは超大幅関税率引き上げでダメージを受けたが、そのほかでは通商措置による障壁を軽々と飛び越えている。
 中国材は米国だけでなく、欧州やアジアなど広く通商措置が講じられているが、今の中国はAD措置というハンデを負っても価格競争力で輸出先を確保している。米国向けの比重が低下する分、日本向けを含め分散を進めると見られる。鉄鉱石のスポット価格は100jを割っている。中国ミルにとって下げ代が出てきたということだ。
 政府は環境対策を打ち出しているが、以前のように大手クラスのメーカーに減産を促しているわけではない。ターゲットが中小クラスに向いている。鉄筋や線材の扱いが多く鋼板類の需給調整のインパクトにはならない。政府としては工場稼働を意識し雇用を優先している。今のような輸出ドライブが変わることはない。
 日本にとっては輸出環境を悪化させ、国内市場にも製品が流れ込むため、中国ミルの存在は非常に厄介だ。韓国や台湾は通商対策を講じている手前、国内について下手に価格を動かすことはできない。ただ、国内需給調整にも限界があり、輸出でバランスをとるしかない。丸腰とも言える対日向けは、中国材が刺激になって下げて勝負するしかない。新年度早々に輸入材のリスクは跳ね上がる。日本鉄鋼連盟では経済産業省と連携し対策を進めている。だが、脅威を目の前にして国内市場を守る術はない。建設も製造も需要のけん引者ではない。それでも輸入が市場を着々と侵食する。