2024年7月26日
ステン薄板市況、半年ぶり60万円台
流通8月はさらに2万円上げ
Ni価格見極め値上げのペースアップ

 (東京)ニッケル系ステンレス薄板の中心相場は、7月帳破明けにベース材でトン2万円程度上伸し、約半年ぶりに60万円台まで回復。8月にもマックスで2万円引き上げを大手流通は見込んでおり、市況はしばらく上昇傾向が続きそうだ。流通関係者によれば、6月から足元までの累計値上げ額は最大で3万円幅になっているという。実需が振るわないなか、辛抱強く転嫁に取り組んだ成果が表れた。逆風下で60万円の大台乗せを実現した要因として、主力流通の動きの変化が挙げられる。10年前と比べても数量優先での強引な値下げ場面は大きく減った。今回の局面でも比較的穏やかに値下げが進んだことで、過度な競争には至らなかった。6月からは底打ち上昇へと転じた。
 内外格差を意識したメーカーの価格政策も効を奏した。日鉄ステンレスは3月から6月契約にかけての店売り累計値上げ打ち出し額が7万5千円、日本冶金工業もそれに近いレベルといわれている。原料価格連動で値上げはするものの、輸入材の価格との格差を配慮したものになっている。流通関係者は国内外のメーカーの値上げを受けて国内市場の価格形成を有利に運びたいとしている。ただ懸念材料もある。足元LMEニッケル価格が下がっており、9、10月頃には風向きが変わることを予想する声も出ている。中国の供給動向が影響するだけに、不透明感がある。中国では政府の姿勢が注目されている。減産指示が出た場合に普通鋼メーン品種とは別に、ステンレスについてミルがどのような対応するかがポイントになる。
 海外材との値差は国内材市況が下がっていた局面でもあまり縮まらず、非常に廉価な中国材とはまだ大差がある。汎用材ゾーンにおける海外材の勢力が一段と増している。需要家業界では性能・品質や信頼性などを評価して国内材と輸入材を巧みに使い分けている。
2024年7月25日
MISI、欧州市場に新たな一手
スペインメーカーをグループ化
年間販売100万d超、7拠点保有

 伊藤忠丸紅鉄鋼(MISI)はこのほど、スペイン大手のリロールメーカーであるネットワーク・スチール・リソーシーズ(NSR)への出資を決め持分法適用会社とした。欧州市場のインサイダー化において新たなアプローチとなる。NSRは2002年設立のメーカーだ。本社をマドリードに置く。イベリア半島に7カ所の拠点をもち、年間100万d超の鋼材を販売している。
 欧州市場は脱炭素の取り組みにおいて、最も先進的な市場であり、脱炭素に関連した建設需要の大きな成長が見込まれている。今回グループ化したNSRは建材分野に強く、鋼板や線材などの製造販売を行っており、こうした需要の捕捉に重要な担い手となる。また複数の製造拠点を保有することから、効率的な物流機能を持ち合わせている。
 欧州では、越境炭素税の導入に着手しており、同市場での展開において、域内での鋼材供給の拠点を確保する意義は大きい。伊藤忠丸紅鉄鋼はこれまでも海外事業の取り組みのなか、現地メーカーへの出資により市場への浸透を深めるスタイルを選択してきた。
 今回は持分法の適用レベルとなる出資ポジションをとっており、同市場への力の入れようがうかがえる。同社は欧州の拠点がもともと少ない。鉄鋼メーカーのグループ化は市場でメジャーな存在を目指す土台となるだろう。(本紙2面に続く
2024年7月24日
建設需要の不振で夏枯れに拍車
電炉の契約残が減少へ
今期7─9月の輸出環境も劣悪化で

 足元の建設需要不振が拭い切れないなか、電炉鋼材の契約残の減少が進行し、下期の販売採算価格に悪い影響が生じないか懸念する声が出始めた。すでに、鉄筋丸棒では7月、8月の減産強化を打ち出す動きが見られるが、形鋼などを含めた全戦線での「非常事態」との認識には至らず、今後の需給バランス悪化、市場価格の値崩れを招かないか難局が待ち受けることになりそうだ。
 目下7、8月は電炉各社の夏季減産期であり、この操業休止期間に需給の適正化が図られるというのが従前の一般認識だが、今年度の市場景観にはもっと深刻な見方が多い。相変わらず「9月になれば」という根拠なき楽観論は残るものの、5月以降、6月、7月前半の建設需要の不振は深刻だ。統計上の詳細はまだ未明だが、流通市場における「肌感の悪さ」は共通しており、前期1─3月の受注に見られた仮需の反動を含め4─6月の需要実態は厳しさを否めない。建設需要の中心を占める、鉄筋、鉄骨需要は4─6月の停滞感が大きく、これまでの契約残が数万dは失われたもようだ。緊急減産を明らかにした鉄筋のほかは、形鋼など深刻化への特別な対応策は明らかにされていない。各社、価格優先の販売姿勢は打ち出しているものの自ら血を流す需給対策が市場に響くところとはならず、秋口からの立て直しが後手を踏む恐れなしとしない。
 東アジア、ASEANの需要環境も厳しく、とりわけ中国からの輸出圧力から価格形成が不調で、日本の鉄鋼各社の輸出商談も精彩を欠いたまま。バッファ輸出はロール編成の助けとなる規模にも足りないようだ。低水準の経産省今期需要見通しはいうまでもなく「底割れ」に向かう市場環境の下、契約残という虎の子を失えば下期の辛酸は火を見るより明らかというべきか。
2024年7月23日
H形鋼市場の異常低迷の要因か
ハイピッチの素材・鉄骨輸入
内外格差で為替影響も防波堤とならず

 輸入のH形鋼と鉄骨の存在が、低迷する建材市場に暗い影を落としている。首都圏を含め各地区で鋼材店の販売が落ち込み、中小ファブの仕事量も減退している。内外格差と、アジア市場における供給過多により対日向けの建築材料や鉄骨の数量は増加傾向にあり、看過できない状態になっている。1─5月のH形鋼入着は既に4万dを超えた。前年ペースを大きく上回っている。
 今年5月通関は8136dだった。内訳は韓国材1646d、中国材6489dだった。韓国も中国もそれぞれ思惑がある。だが、その根幹にあるのは中国の需給バランスの崩れだ。2023年暦年の通関実績は7万3025dだった。今年は前年実績を軽く超えるだろう。平均単価は23年平均で9万7714円。今年の5月の単月平均は10万2435円だった。為替影響はあるが5千円の上昇では、日本国内への流入のハードルにはなり得ない。先日、日本製鉄グループがときわ会を開き市中のH形鋼在庫をまとめたが、全国22万d台で過剰感ありの状態になった。過去の経緯からみてもときわ会の全国在庫が22万dというのは極めて低水準にあるといえる。それでも在庫回転率は悪化する。
 地域の鋼材店の販売と中小ファブの仕事量は密接にリンクする。5月単月の鉄骨需要は30万dを下回った。鋼材店も中小ファブも惨憺たる状況にある。仕事のチャンスが減るなかで、海外の素材や鉄骨がシェアを侵食している。H形鋼の輸入については東京製鉄が猛警戒をしている。同社が建値を動かせない要因の1つだ。中国では需要減影響でH形鋼市況は続落した。ミルへの減産指示が近々出ると言う噂もある。主対象は鋼板類となるため建材品輸出が収まる保証はない。
2024年7月22日
共英製鋼が北米事業を抜本強化
ビントン新製鋼工場を建設
年産30万d、2億3000万jの投資計画

 共英製鋼は19日、北米事業の強化策を明らかにした。ビントン・スチールで新製鋼工場を建設。圧延設備も一部改造し、生産性の改善とコスト削減を図る。詳細設計は目下検討中だが、年産30万d(ネットd)。鉄筋棒鋼および鉄球用丸鋼の圧延設備を改造する。投資額は2億3千万j(約345億円/1j150円換算)。工事開始は今年12月を予定し、2027年1月の稼働開始を目指す。
 ビントン・スチール(テキサス州に立地)の代表は北田正宏氏(共英製鋼取締役・常務執行役員)で、鋼材の製造・販売(鉄筋棒鋼、鉄球用丸鋼)を事業とする。資本金4800万j。設立年月は1962年で設備の老朽化が否めないという。共英製鋼による子会社化は2016年。出資比率はKYOEI STEEL AMERICA(共英製鋼が100%出資する米国での鉄鋼事業統括会社)が100%。共英製鋼は以前から米国事業の強化策を検討してきたが、ビントン・スチールは設備の老朽化が課題となっており、今回、設備老朽化への対応と設備能力増強を目的として製鋼工場の新設および圧延工場設備の一部改造を実施することにした。生産性の改善により大幅なコスト削減および生産量・出荷量の拡大を図り、収益の改善・安定化を図る。
 米国での共英製鋼の事業はビントンのほか、カナダのアルタ・スチールがあるが、日本、ベトナム、北米を3極として24─26年度の中期経営計画「NeXuSU2026」を策定している。成長戦略を「国内鉄鋼事業におけるコスト競争力と営業力を武器に、成長するグローバル市場への横展開を図る」と定め「グローカル・ニッチ戦略」を推進。ビントンは3カ年の投資総額1100億円の構想の一環。鉄鋼事業の海外生産を全体の過半を超える成長地域と見据え、体制の整備を進める。
2024年7月18日
日鉄Gときわ会、6末H形鋼在庫横ばい
3地区出庫、前年同月比20%減に
中小物件低迷、仕入れ抑制で耐える

 日本製鉄と日鉄スチールは18日、ときわ会を開きH形鋼の市中在庫状況をまとめた。6月末の22万900dで前月比横ばいだった。出庫は極めて低調だが、流通各社の仕入れ抑制で入庫が抑えられた結果によるもの。全国出庫は6万900dで前年同月を1万dも下回っている。とくに主要3地区の減少幅が大きい。
 3地区出庫は4万3400dで前月比5・9%減少した。前年同月比は21・1%の大幅減だった。物流倉庫向けは堅調に推移しているが、中小案件が総じて乏しく3地区の出庫に暗い影を落としている。3地区出庫は2023年12月以降、5万dを下回る水準が継続している。5月の連休明けから一段と市中の動きは悪化。6月から7月にかけても同様な状況となっているという。本来ならば稼働日数の増加により6月は前月より増えるところだが、そうした傾向は見られない。3地区については、東京が前月比6・8%減、大阪が4・3%減、名古屋が8・5%減だった。
 東京ときわ会では厳しい需要環境ながら冷静な見解が目立ったという。市中では各社が収益改善のため懸命な取り組みを進めている。出庫水準の低下にも耐性ができていて、一喜一憂することはない。出庫水準回復は難しく、当面現状の在庫水準が続くと見られる。出庫減のため在庫率は3・63まで上昇。流通各社は状況を見極め、在庫を少し絞ることも検討していくという。
 3地区の入出庫、在庫については次のとおり(単位100d、カッコ内は前月比増減率)。▽東京=入庫145(▼10・1)、出庫126(▼6・8)、在庫495(4・0)▽大阪=入庫193(▼13・1)、出庫217(▼4・3)、在庫616(▼3・8)▽名古屋=入庫88(▼10・6)、出庫91(▼8・5)、在庫304(▼1・2)。(本紙2面に関連記事
2024年7月18日
共英製鋼が全国で鉄筋緊急減産
計画比7─8月20%圧縮
8契販価を据置き生産調整策へ

 共英製鋼は17日、異形棒鋼の7─8月生産を計画比20%(10日間)の減産とする方針を発表した。併せて8月契約販価を全国的に前月の据置きとし、価格維持に努める姿勢を明らかにした。
 7─8月の鉄筋生産は、夏季操業休止から当初より減産の計画となっているが、足元のマーケットにおける需要減を踏まえて全国的に生産調整に入るもの。地区によって明細の投入状況に差異が見られることから、減産率は関東で20%弱、名古屋以西で20%強の見当となる。各地区でほぼ現状の出荷見合いの生産調整を行い、受注残(契約残)のポジションを変えずに現行販価を維持する意向。
 同社の鉄筋販価は関東地区、中部地区に比べ大阪以西の西日本地区が安く、需要減の市況反映度が高い。また、市況が関西、中四国より高位にある中部地区でも明細の投入は少なく、関東より強い生産調整が必要と見られる。西日本では、先に大阪の中山鋼業が7月の操業で5日間の緊急減産を打ち出しており、関西の棒鋼ミルも九州の棒鋼ミルも価格堅持策を貫く姿勢で臨んできた。各社、夏季操業休止を含めて減産基調にあるが、7月、8月の生産計画を下方修正し、市場の緊張感を醸成する構え。共英製鋼の20%減産は鉄筋のリーダーカンパニーが現在の明細不足の事態を重視し、これに耐える基本姿勢を打ち出した格好であり、これが崩れれば10万円市況は崩壊し、斬り取り合戦が現出する。ゼネコン、商社の売買姿勢の抑止力となるか、社会コスト上昇下のトップミルと小棒業界の下期を占う試金石となる。
 鉄筋市場では、小棒各社の生産販売姿勢とともに商社・大手問屋の相場観に基づく先決め・先売り商い(カラ売りなど)があり、市況の健全性を損なう前科がある。7、8月の局面が注目されるゆえんでもある。